« 椿三十郎 | トップページ | 陰日向に咲く »

2008/01/07

星新一 一〇〇一話をつくった人

ショートショートの分野で第一人者星新一の伝記である。

600頁弱の分厚い本であるが、ページの最初から最後までスカッとするところが少なく、読了後は何だか切なくなってしまった。

終始一貫しているのは星新一は孤独であるということか。酒の席では随分放言もしたらしいが、編集者や外部の人に見せる極めて紳士的な態度の落差を思うにつけ悲しくなる。接する人によって顔を使い分けることほど悲しいものはないだろう。それは外界に対する自我の強烈な防衛に僕には見えてしまう。ならば防衛したその自我の中身は一体なんなのだろうと考えるとそれはなかなかに難しい。案外空っぽであることも少なくないのだ。

本書で一番衝撃的なのは「人を信用しない人だった」という夫人の言葉だろう。一番身近にいて星新一を見つめ続けてきた人の言葉は重い。確かに星は若い頃、父親の事業を継いで苦労をしたのだろうがそればかりではあるまい。大人になる過程で本来人が身につけるはずの何かを欠落させたまま成長していったためなのだろうと思う。本書の指摘にもあるように兄弟とは離れて育てられたということもあるだろう。だがそれだけでは多分理由のすべてを充たすことはできないと思う。

星新一が自分のルーツを辿るように父と祖父を作品にしたのは特筆に価すると思うのだ。戦後の日本文学で父親というのは母親に比べれば随分比重が軽くなるというのが僕の見立てなのだが、そうした潮流にあって、父を描くというのはどういうことなのだろう。いまだ語られぬ父が巨大な塊となって星新一の作品群の奥に鎮座しているような気がしてならない。

さて、話は変わるが、この本は星新一の伝記ではあるけれども同時に日本のSFの伝記でもある。熱心な一人のマニアから出発していって、星新一という天才を得て普及定着していく様は、同時期に出発した日本漫画の創生を思い起こさせて興味深い。手塚とトキワ荘の仲間はこれまで映像作品にさえなったもので、人々の間に随分広がっていると思うが、同じようなことがSFの世界でも起きていたというのは面白いことだと思う。こういう部分を読むだけでも価値のある本だと思った次第だ。

|

« 椿三十郎 | トップページ | 陰日向に咲く »

「書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

久々に私も まっとうなコメントできるかも!(笑)
確かに 星新一の性格じゃ事業に向いてないですよね!「人民は弱し、官吏は強し」だっけ??大学時代に読んだけど 確かに孤独な人だなぁ~って思った記憶があります。
定かじゃないけど 確か「宇宙人??」とかいう同人誌から世に出たんじゃなかったっけ??
頭の中だけ、自由な人なんだろうな、って思いますね、あるいは現実逃避的なのかしらん??(笑)
ショートショートの文章も皮肉っぽい話も多いし確かに人を信用できない人なのかもね。

投稿: りえ | 2008/01/12 23:44

こんばんは、
最近はお忙しいのかしらん??(笑)
毎日、北さんのはチェックしてますよ!!(笑)

投稿: りえ | 2008/01/27 22:14

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/95537/17611115

この記事へのトラックバック一覧です: 星新一 一〇〇一話をつくった人:

« 椿三十郎 | トップページ | 陰日向に咲く »