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2007/10/07

雷蔵、雷蔵を語る

この本の裏表紙には「雷蔵が自身の言葉で著した唯一の著作」などと書いているが、実際には雷蔵の後援会(今で言えばファンクラブといった方が妥当だろう)会報に載せた自身の近況報告を集めたものに過ぎないと言える。したがって自伝的なエッセイを期待する人には不向きな本であるかもしれないが、近況報告が中心であるがゆえに時代の息吹が意識せずに織り込まれて時代背景がよくわかって面白い。昭和30年代を知らぬもの、具体的には高度成長期を知らぬものには新鮮な驚きを与えてくれる本だ。

本を読んだ第一の印象は非常に生真面目な雷蔵の姿だ。所属映画会社に対する責任を自覚する一方、忙しすぎる撮影に疲れ、一つの作品を腰をすえて作りたいという意識が垣間見える。テレビの黎明期にあって映画産業が斜陽に向い始める丁度その時を雷蔵は生きていたわけでその苦悩する姿がのちの時代を生きる僕らにある種のライブ感を与えてくれる。時代のダイナミズムとでもいうのだろうかそういったものを感じさせる本だ。

それから生真面目な雷蔵の姿として、一人の人間の生き方を真摯に考えているところが非常に面白い。特に結婚に関する考察は興味深く、また微笑ましい。「立派な家庭を築きたい」と語る雷蔵の姿には現代人とは少し違った感性があるように思えてならないのだ。おそらく今の人は「楽しく、暖かみのある家庭を築きたい」語るのではないか。そこには昭和30年代の人と現代の人との意識の違いが巧まずして織り込まれているようだ。雷蔵の時代は敗戦から立ち上がり高度成長期を迎えて、世界に羽ばたいてやろうという、司馬遼太郎風に言えば「坂の上の雲」を掴もうとする時代の感覚があった。「立派な家庭」もまた、坂の上の雲を掴もうとする過程に織り込まれている事象なのだろう。しかし成熟した社会に住むのちの時代の我々は坂の上の雲を掴んでは見たものの、そこには必ずしも幸せはなかったというある種の落胆がある。落胆は家庭という概念の位置づけを変え、癒しや安らぎを家庭に求めることとなったが、外の世界で傷付き疲れ果てて家庭に戻ってくる人々は家庭の崩壊を目の当たりにすることも珍しくないのだから悩みは深いといえる。おそらくは家庭に属する人々全員が傷や疲れを自覚し、それらを家庭に持ち込むことで家庭に包容力がなくなっているのではないかと思う。安らぎの場所が傷の持ち寄り所になったのだから致し方ないではないか。そんな風に僕は思っているのだが・・・。

驚いたのは雷蔵の海外旅行のくだりである。彼の海外旅行はアメリカだったが、この時代海外では日本ブームが起きていたのだ。こんなことがこの時代に起きていたとは驚きだった。時代劇が中心になって海外にたくさん輸出されていたらしいがそんなムーブメントがあったなんて知らなかった。現在アニメを中心にして日本の映像コンテンツがたくさん輸出されているが、その露払いがこの時代にすでに行われていたのだ。道理でハラキリが英語になるわけだ。日本文化が世界で愛されるのは昨日今日始まったことではなく長い歴史のもとに行われてきたのだ。ということは、この後に起きたやくざもののブームなんかもきっと海外に輸出されてそれなりのムーブメントが起きたのかもしれないなと想像する。そう考えれば日本は一定期間ごとに日本ブームを海外に巻き起こしていたのだからこれは凄いことだと思う。世界中を沸かせ続ける日本って一体・・・!韓流ブームなんかが世界的にみれば非常にローカルなムーブメントに終わった理由がよくわかろうというものだ。

しかし当時のスターさんというのは忙しいですな。超人的な仕事量をこなしている。雷蔵は一年間に12本も映画を撮ったというのだから、すさまじい量だ。毎月雷蔵の映画が封切られるのだから。今じゃ考えられない。毎月キムタクの映画やドラマなんて考えられないよなぁ。

雷蔵は儚げな感じを映画の画面の中では見せているが、その実像の一端が垣間見えて面白い。ただ儚げなのではなく、非常にまじめで将来の映画界を憂いていて、家庭においてはよき父親、夫であろうとした人なのだ。雷蔵の立体像を見た気がする本ですな。よきファンであろうとするならば読んでおくべき本であるかもしれませんぞ。

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