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2007/08/15

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

家族をテーマにした映画がまた一本増えた。まずこれが印象の第一だ。

現代の社会において家族というのは人々を悩ますもっとも大きな問題なのだろう。人間の生活においてもっともベースとなるもののはずだが、社会における変化のスピードと同じかそれ以上の速度でもって家族は急速に変化しているのだろうと思う。しかもこれは極めてプライバシーの問題にかかわることであるために誰もその問題に深く入り込むことが出来ない。それが今の家族を取り巻く状況というものなのだろう。

この作品は主人公の妹が姉のプライバシーを漫画にして暴露したことから家族の崩壊が始まっている。

プライバシー。現代に根付いた言葉だが逆に現代人の行動や思考を束縛する奇妙な言葉。プライバシーが守られれば自由度が増すと誰しもが考えたが必ずしもそうではなかったのだろうと僕は思っている。

本作における主人公は女優になりたいと考えて東京に飛び出していったものの今のところ目が出ていない。両親の死によって故郷に帰ってくるところから物語りは始まる。かつて女優になることを反対された姉は東京に出てくるための資金を同級生相手の売春でまかなっていたが、妹にそれを漫画にされてしまい、しかもそれが雑誌に掲載されて故郷の村人全員が知るところとなってしまった。姉は怒り狂い妹を苛め抜く。

これがこの作品の基本設定なのだが、このプライバシーの暴露とはなかなか意味深いものをもっていると僕は思っている。プライバシーは守られねばならないという前提がある一方、家族には秘密をなるべく持ってはならないという圧力も同時にあるだろう。明らかにこの主人公たる姉の行為は家族の恥部だ。この恥部を本来ならば家族への暴露程度に収めてしまうのが普通の方法なのだろう。そんな作品はごまんとある。だがこの作品の妹はそれを無思慮にも世間一般に公表してしまった。家族は崩壊しそれを目の当たりに見た妹は深く反省する。だがその反省とは家族というものの幻影を守ろうとする切ない行為に僕には見えてしまう。

この作品の兄嫁はかなり辛い立場に置かれたキャラクターだが、彼女は孤児院で育ち初めて持った家族というものをどんなに辛い立場におかれても異常なほどのポジティブシンキングで守り抜こうとする。この兄嫁が象徴的に現す家族というものもまた幻影なのだと思う。ちょうど妹が守ろうとしたのと同じように。

だがこの家族はもう一度の崩壊を経験する。それをもたらすのは血の繋がらない兄によってだ。姉と妹の間で必死に家族というものを守ろうとするのがこの兄なのだが、この兄と姉が関係することによってそして妹がそれを暴露することによってもう一度家族は崩壊してしまう。かろうじて守られていた家族の幻影は木っ端微塵だ。しかし前回の崩壊と違って今回の崩壊は姉と妹が激しくぶつかり合うことだ。感情むき出しにしていがみ合いぶつかり合うことだ。

結局、家族を家族たらしめるのは激しい感情のぶつかり合いなのだ。何となればラストはこの妹と姉は一緒に東京に旅たつのだから。スマートな洗練された家族の像など何の意味も持たないことをこの映画は教えてくれる。

僕は常々思っているのだが家族をめぐる物語はちょうど自分探しの旅に似ている。そっくりではないか、理想の姿を求め、それに合致しない己の実像に悩み葛藤する。多くの自分探しの物語は在りもしない幻影を求め、その幻影がどこにもないと気付くというものだが、家族も結局その幻影に悩まされているのだ。まもなく日本の映画や文芸はその幻影の呪縛から解き放たれるだろう。今は本音で語りあえば何とかなる的なものが多いような気がしているがそれを通過してしまったときそこには恐らく個というものしか残らない姿が待っているのだろうと思う。そしてそれは徹底的に孤独な救いのない個の姿だと僕は予想しているのだがどうなのだろう?

さて、この登場人物たちの苗字が和合なのは皮肉であり願望を込められたものだ。作者のセンスを見せられる気がする。

どうでもいいことだが、妹役をやった佐津川愛美は蝉しぐれで初めて見て以来だがこの作品で見れて良かった。ビジュアルもかわいらしいが演技もいい。逸材ではないか。成長した姿を見せてくれてありがとうと言いたい。おじさんはあなたを応援していますぞ!同じ静岡県だしね。

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コメント

題名がいいねっ!

投稿: りえ | 2007/08/18 21:08

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