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2006/11/18

残酷な子供グロテスクな大人

最近は自分のこれまでの趣味になかった本に手を出している。自分のこれまで知らなかった領域のことを知るという作業は実に面白い。なかなか自分の知識が追いついていかない面もあるが、それはそれで面白いと思う。

本書は春日武彦という精神科医が書いた本だ。専門書というわけではなく、随筆風な語り口で僕のような門外漢でもわかるようにはなっている。もっとも深く理解するにはそれなりの知識は必要なのでしょうが。

この本の特徴的なことは実際の事例を数多く採録するというより、文学作品を思考の糸口にしていることがほとんどであるということだ。また同じように作者自身のこれまでの生い立ちから感じたことを思考の糸口にしていることも多い。したがって精神医学的な本ではなく、非常に文学的で、良質の文学批評を読んでいる気分になる。

本書の中心的な課題はイノセントという言葉或いは概念についてであろう。イノセントという言葉から我々が受ける純粋さやひたむきさ、傷つきやすい心といったイメージはたぶんに誤解を含むものだということを作者は明らかにしていく。その過程は読者である僕にとって非常にいたたまれないものだった。特に第5章のU君とY女子のくだりは、僕に冷や汗をかかせた。なんとなればここに出てくるU君とY女子の特徴を自分もまた持っていると自覚しているからだ。まるで裸の自分を見せられるような恥ずかしさだった。僕もまた作者の指摘する「子供という病をおった大人」だったのだ。それは同時にイノセントというイメージを自分の都合のよいように利用する小狡い大人の一人だったという指摘でもある。

いやはや、この世にこんな本があるとは知らなかった。予想外なところで自分の自画像を見せられた気分だった。当分の間は再読したくないなと思わせるほどの作品だった。何事にも動じないタフな神経の持ち主に一読することをお奨めする。

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