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2006/11/05

黒い悪魔

佐藤賢一の佐藤賢一らしい小説といおうか。

佐藤賢一の小説の主人公というのはこうと決めたら誰が何をいってもいっても耳をかさない猪突猛進型で、だけど人好きがして、だけど本人は孤独でという主人公が多いような気がする。「双頭の鷲」の主人公がその才能を王に認められるのを幸福な例とするならば、この「黒い悪魔」の主人公はその才能を認められなかった不幸な例とすべきか。この小説の主人公は文豪デュマの父親だ。

時代はフランス革命の少し前から始まる。フランスの海外植民地、カリブ海に浮かぶ島、コーヒーのプランテーションの奴隷の子アレクサンドルは白人との混血児だ。アレクサンドルは他の奴隷とは違うと自負している。何となればアレクサンドルには買い戻し特約が付けられていて、いつか買い戻されて父に会えることを夢見ているからだ。父はこのコーヒー園の前の持ち主だったのだ。

こんな風にして物語は始まるのだが、時間と空間を一足飛びに飛んでいく佐藤賢一の構成に凝った作りは健在だ。初めて読む人にはとっつきにくいかもしれない。だが物語りはフランス革命が勃発し、やがてナポレオンの登場となり主人公は否応なく、巻き込まれていく。あまたの挫折を乗り越えていく姿は、一種のヒロイズムをも感じさせて痛快といえる。ロベスピエールの死刑執行シーンなどは虚実入り混じって読むものをニヤリとさせる。

佐藤作品の一つの特徴と言えるのではないかと僕は思っていることが一つあるのだが、それは肉親との深い断絶ではないかと思う。この小説の主人公は父親との関係に悩んでいる。肉親に認められたいという幼い頃の欲求を抱えたまま大人になり、どれほどの活躍をしても心が充たされないという心の飢餓感の源泉になっている。一見かっこよく颯爽としていてもこの飢餓感のために、主人公は次々に現れる困難をものともせずに突き進んでいく。それが読者をあっといわせるし、かつ悲しさや悲壮感を感じさせることにもなり物語に引き込まれてしまうのだ。この小説の主人公もそういった人物として造形されている。

しかし面白い小説だった。一気に読ませる小説だ。この感覚はたぶん男にしかわからないだろうと思う。女性がこの本を読んでどう言うだろうか?そんなことを思いながら読了した次第だ。

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