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2005/04/18

半島を出よ

上下巻を昨日の深夜読み終わった。その感想文を書いてみる。

なんともわかりにくい小説だと思った。
わかりにくさはどこから来るかといえば、
物語の設定にあるように思う。
この設定むりがあるなあ。というのも2011年の日本を舞台に
しているのだが、この頃には米国の通貨ドルが暴落して
それに合わせて円も暴落し、経済は完全に行きずまり、
しかも食糧危機も発生しかねないという状況だ。
日本は没落しているという設定なのだ。
ここまではいい、フィクションとしてはありうべき設定だろう。
ところが、日本国内の細かい描写になると「豊かな国日本」の描写になってしまい
ちっとも危機などない。
ホームレスが格段に増えていると書かれているが、
増えているという記述に特段のリアリティはなく、非常にわかりにくい。
この小説では、時代状況の設定が非常に重い比重を占めているので、
このわかりにくさは致命的なミスといえる。赤坂の夜の章では
高いワインを飲みに来る客を迎えるバーのマスターを描いているが
そこには危機や切迫感はない(もっとも、作者としては日本が高所得者層と低所得者層の2極分化、ひいては東京と地方の切迫感の違いを描いているつもりかもしれないが、それほど成功しているわけではない)。

また、福岡の東京に対する反感をNHK小川を通して描いているが
これには違和感を感じざるを得ない。
ここでは、地方の東京に対するコンプレックスを書いていて、わからないわけではないが
理解に苦しむ。僕も地方の人間であり東京へのコンプレックスという感情を共有してはいるが
その反面、東京なしには生きられないという現実を理解しているわけで、愛憎半ばする感情というところだろうか?ちょっと理解しがたい感覚がこの小説にはあるようだ。

また、この小説は各章にそれぞれ違う1人の主役を置いて、物語を進めていくのだが
こういう手法をとればやはり統一感というのは失われるわけで、それはそれで致し方ないことだと思う。
作者はその辺りのことは十分理解して作っているのだろう。

それぞれの描写だがこれはすごい!
とくに僕がすげーと感動したのは、「死者の船」「退廃の発見」であろうか。
「死者の船」には共有感覚を見つけ出す過程が描かれていて美しいと思った。
共有感覚を喪失した少年達(あるいは現代日本人?)がふわふわとして曖昧な共有感覚を
掴む姿は正直感動した。確かに共有感覚というのは皆でわいわいすることではないのかもしれない。
それは上辺だけの共有感覚で確かな手ごたえのないものなんだろう。
ふわふわとした曖昧な共有感覚とは例えば、映画や演劇に感動して自然と拍手し、スタンディングオベーションになるというような物もあるのだろう。このとき見ず知らずの観客達は間違いなく共有感覚を持っている。面白いと思った。目から鱗だと思った。

「退廃の発見」には驚いた朝鮮の将校が発見するのだが、「多数のために力のない少数者が犠牲になることだ」と発見するのだ。
まあ、一般に言われるような退廃のイメージとは違うとはいえるのだが、
だがここでいえるのは、国家とか、集団は「多数のために力のない少数者が犠牲になることだ」という定義を
自然と内包せざるを得ないということなのだろう。それは抜きがたい社会のシステムであり
このシステムをなくそうとすれば、全く孤独に生きるくらいしか方法がない。
退廃とは孤独の恐怖ともいえるわけで退廃を避けたいと願うならば、孤独の恐怖に耐えねばならないと
いうことだろうか?なかなかの慧眼だと思った。

これはいただけないと思ったのは、日本政府の描写だろうか。
余りにも矮小化しすぎて描いている。もう少し日本政府は
果敢な政府だと僕は思っているのだが、どうだろうか?
もっともイラクへの自衛隊の派遣でろくな武器も持たせず
現地に送り出したことを考えれば
むべなるかなと思わないでもないのだが、ちょっと気に入らない。
日本外交は意外に国益を踏まえ、冷徹な計算をするように思うのだがどうだろう?
(今起こっている中国、韓国の反日運動に関連して竹島を放っておいて、東シナ海のガス田開発から手をつける
というのは資源のない、竹島を見事にスルーして、優先順位を過たずつけているように思うのだがどうだろう?)
もう少し考えたほうがいいだろう。
決断力のなさが日本の歴史みたいに言われるが
少なくとも日本は自分の意思で日清、日露、大東亜という戦争を選択してきたのだから。
矮小化しすぎる描写は決してうまくはないし、物語に軋みが生じてしまう。
国土を荒らされて黙っている政府はいません。

全体的に人物の描写は非常によく書けていて舌を巻くほどだが
大もとになる背景の設定は脆弱だというのが、率直な評価というところだろうか。

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